2022年5月13日金曜日

 本、神谷美恵子著作集第3巻、『こころの旅』みすず書房、1989年第10刷

 ついに読みました。母親として知らなければならないことがたくさん書いてありましたが、当時読んでも、当時の私には受容する余力がなかったでしょう。無我夢中の時代でしたから。

 でも、中盤からは今の私にも思い当たることが多くて、割とスムーズに読めました。と言っても、たくさんの参考文献を示した学術書ですよね。

 例えば、『思春期の自意識』、今でもそうですが、自分の言ったことしたことが頭の中で何度もこだましている思いをしましたが、みんなそうなんだそうです。『アイデンティティの問題』、自分の生き方や役割は何なのか、若いうちに確立しなければ、無為に生きてしまう。私は若いころ、親に言われた通りに生きてきて、自分では考えもしなかったような気がします。何にも自学しなかったのです。

 『人生の旅路半ばで』、これはダンテの『神曲』の最初の行だそうです。不勉強な私は読んだことがありません。ダンテは若いころ、政治運動に没頭して、30代後半に故郷から追放され、イタリア各地を放浪し、困窮の日々を過ごし、41歳ころから56歳でマラリアで死ぬまでの間にこの『神曲』を書いたのだそうです。人生の旅、こころの旅は思い通りには行かないと示してくれています。

 そしてお医者さんとしての、病や死との向き合い方、その中でも人生は『宇宙的時間の一部』という言葉に何か救われるものを感じました。私の自意識の塊の対人恐怖症なんて、無に等しいのです。

 本も断捨離の対象にしているのですが、この本は座右においておこうと思いました。時々開いて、判断を考える助けになってほしいのです。この本を買うきっかけを作ってくださった、皇太后陛下に感謝です。

 最後に、神谷美恵子氏のウキペディアから、その生き方を読んでみると、優秀な家庭の中で、学ぶ多くの機会を得ながら、まさに『アイデンティティー』を確立し続けた一生が見て取れます。この『こころの旅』は彼女の一生だったんだなあと思いました。