本、『野良犬の値段』、百田尚樹、著、2020、幻冬舎発行
これは最近、知人にいただいた本です。新しい本なんて何年ぶりでしょう。また現代の第一線の作家さんの本も何年ぶりだかわかりません。なので、いつ読み始めるか、戦々恐々で、なかなか表紙を開けられませんでした。だって、知らない人に会いに行くようなものですから。
しかし、次に読む本はこれなので、次の隙間時間ができたら、一時間でも読みだすぞと気構えていました。でも、コロナの自粛が延長されて、どこにも行くところのない娘家族が、休みの度にやってきます。忙しいですよ、掃除、買い出し、料理、ごみ出し、その合間に九月の草取り、木の伐採。秋に死ぬ人は春に死ぬ人より多いと昔聞いたことがありました。猛暑が急に治まって、台風に気を取られていると、急に寒くなり、また暑さがぶり返す。高気圧と低気圧の間で、血圧も上がったり下がったり。同居している娘は体調不良でお医者さんに行きました。私はしっかり体操時間を取っています。
などなど、言い訳をしながら、それでもある日、恐る恐る表紙をあけました。手がかりは、帯に書いてある、『私たちは、ある人物を誘拐しました。この人物を使って実験をします』という言葉だけ。一体、何が書いてあるのでしょう。
ありがたいことに、大きな字でした。でも、読みだしてすぐにこりゃダメかとガックリ。出だしからスマホでツイッターをやる人の話でした。爺さん婆さんはスマホは持っていないし、ツイッターもしません。そこへ行くとトランプさんは進んでいますね。アメリカは国が広いせいか、通信手段は進んでいるようです。コロナのせいで会えない分、老人でも毎日スカイプをしているので忙しいと言っている人もいます。と、余計なことを考えてしまいました。
少し読み進むと、だんだん日常の話になり、私にも読めるかなと思えてきたのですが、今度はツイッターがどんどん拡散していき、登場人物がどんどん増えていき、所属場所も数か所にわたっていきます。
作者の経歴を見ると、放送作家として活躍、有名な「永遠の0」で作家デビュー、本屋大賞受賞など輝かしい経歴の持ち主で、最新ニュースに疎い私でも名前を知っていたくらいの人でしたから、広い行動範囲はあたり前なのかもしれません。でも、社会性ゼロの私は、場面が変わるたびに右往左往、ここはどこ、誰だっけという状態でした。
第二部に近づくとますます難しくなって、第二部でぱっと変わるのです。ストーリーは書いてはいけないのですが、そこからはドラマを見るように一気に読めました。様々なメディアの功罪、眞子さまや菅首相に向けられたようなバッシングの被害、ロストジェネレーションの話、派遣の現実、高給取りの話、企業の裏側や収益、ネットの使い方、作戦のたて方。社会を知り尽くした作者ならではだと思いました。まさに当代の気鋭の作家さんだと思います。