2019年8月22日木曜日

上の家

 山から流れてくる小川に沿って建てられている実家の敷地は、一軒一軒段になっているのですが、その上の家が取り壊されると、先日弟が言っていました。
 土蔵がいくつも建っている、一時栄華を極めたお宅で、そういう家は地元では評判がいいとは限りませんが、私が知っている範囲では、そのあたりでは珍しく有名私大を出たお父さんは村の教育長をしていました。
 ご夫婦は美男美女で、お母さんは近隣の商業都市の没落した名家の出で、村長さんをしていた親御さんが家格を上げたいためにもらったのだという評判でした。
 だから、三人の子供たちももちろん、田舎に似合わず、垢抜けした美男美女でした。まわりの評判を知ってか知らずか、長男は跡を継がず地元を出て働く道を選び、長女と次女はお母さんの実家のつてで件の商業都市に縁付いたようです。
 一人残されたお母さんが亡くなった後、商売がうまくいかなくなった次女の一家がその大きな古い家を相続したようでしたが、三人の男の子たちはやはりそれぞれに道を見つけて出て行ってしまい、彼女だけがひとり残されてしまいました。
 彼女は弟と同級生で、小さいころはよく遊びました。美人で明るくって育ちのいい人だったという記憶しかありません。
 その彼女も息子さんのところで同居するといい、古い家があっては売れないので壊して土地だけにして、売るのだということでした。
 母が言っていましたが、その家の初代は、天秤棒に息子と荷物を入れ、奥さんと二人、親せきを頼ってやってきたやくざだったということです。それで親せきのやっていた賭場に出入りし、そこで金貸しをして、農家の土地をカタに取り、土蔵を何個も立てるほど稼いだのだということです。その天秤棒に入れられていた息子がやがて村長になり、孫が教育長になり、栄華を極めたのですが、村では用心される存在だったのです。
 こんな映画になるような物語を残して、その周りにびっしりと土蔵と塀を巡らせた大きな古い家はなくなってしまうのです。