2023年3月21日火曜日

 芸のためなら 女房も泣かす

 亡夫の悪口を言ったついでにもう一つ。これは『歌:都はるみ・岡千秋、作詞:たかたかし、作曲:岡千秋、発売:2005-09-23 21:49:50』の『難波恋しぐれ』の出だしですが、思わずこの一説が頭に浮かんできた出来事がありました。

 遺品整理で、夫が『誰誰に貰った』と言っていた絵などはできるだけお返しするようにしていて、ある日、玄関を掃除していたら、そこにかけてあった絵を「あの人に貰った」と言っていたことを思い出して、「返さなきゃ」とすぐに電話しました。

 彼女は「覚えがないわ。あなたが怒るから言えなくって、私に貰ったって言って持って帰ったんじゃないの」というのです。そうかなと思って裏を返してみると、前にも見た名前が書いてありました。その名前は、他にももう一枚ありまして、きっと知り合いだったんだと気が付きました。

 『そういえば』と思い出しました。前に夫が誰誰に貰ったと言っていた絵を返す時に、当の本人は「覚えてないですけどね」と言いながら、嬉しそうに持って行きました。あれも、本当は自分で買ったのかもしれません。今となってはわかりませんが。

 で、彼女は、それよりも部屋に飾ってあった「阿修羅像の絵の方が好きだわ」というのです。「その絵は夫が気に入って、作者に借りていて、同じテーマでの水彩画を買ってあったことから、夫が亡くなる前に返したので、今は手元にない」というと、「水彩画でもいいわよ」というのです。形見分けという意味かなと思ったのですが、ちょっと知らん顔をしてしまいました。

 つまり、これは私が買ったのです。しかも、あまりいい思い出ではなく。

 つまり、昔、ある日、夫が珍しくお茶を飲みに行こうと誘うので、いそいそと付いて行ったのです。そこの喫茶店のオーナーは画商もしていたのか、阿修羅像の作者の方もいて、夫がその水彩画を買ったというのです。夫は私にお金を払ってくれと言いましたので、まだ世間知らずだった私はなけなしの4万円を支払いました。絵はきれいでしたし、夫も気にいっているようだったので、その後、恨みに思った事はありませんでしたが、ここに来ていろいろわかって来てみると、『欲のためなら 女房も騙す』人だったんだと分かってしまいました。

 今となれば、価値観の相違があったのだとわかります。夫は厳しい芸術家の家の4男、やりたいことをやるためにはあの手この手を使うことを覚えたのでしょう。方や私は田舎の農家の二人姉弟の姉、のほほんと堅実に育ち、後悔しやすい性格上、嘘などとは思いもつきませんでした。今思えば騙しやすかっただろうなとわかります。

 一人になって、静かに人生をいろいろ考えるようになると、『人生を舐めていたな』と反省します。『エイ、ヤ』と生きてきて後悔ばかり。『自分さえしっかりしていれば、どうとでもなる』と思っていました。しかし『相手のある世界』ではそうは行かないのです。『もっと慎重に、考えながら生きてきたら』と反省します。一生独身だったかもしれませんが。

 この間、ユーチューブの何かのコマーシャルでやっていましたので、正確かどうかはわかりませんが、『医者の自殺率は普通の人の三倍、その中で精神科医の自殺率は六倍』だそうです。きっとお医者さんは早くに現実を見てしまい、知ってしまうのだろうと納得してしまいました。

 で、あの絵ですが、今度彼女が欲しいと言ったら、もろもろの事は言わずに形見分けしようと思います。彼女には亡夫はもちろん私も本当にお世話になってしまったのですから。

 『芸のためなら 女房も泣かす

それがどうした 文句があるか

雨の横丁 法善寺

浪花しぐれか 寄席囃子

今日も呼んでる 今日も呼んでる

ど阿呆春団治』