70代後半、声をかけられなかった
いくら臆病な私でも、70代前半にはこんなことはありませんでした。夫が亡くなって4年半以上、遺品整理をしながらの日々は忙しくて、あっという間でした。
やっとこの頃時間もできて、四年前、頻繁に電話をかけてくれた友人のことを時々思い出すようになりました。ここ、ニ年ほど電話が来なくなっていたのです。
最後の電話では、「主人の腕にすがって散歩してきた」と言っていました。いつも面倒見のいいご主人のおのろけばかり聞かされていたので、「またのろけて」と体調の変化等信じませんでした。彼女は私より二歳ほど年上でしたが、高校では体操クラブで、平均台等得意種目だったと話していたことがありました。運動クラブなど入ったことのない私がこの程度なのだから、彼女が歩けなくなることなど全く思いませんでした。でも、電話魔の彼女がここまで沈黙するのは、やはり何かあったのだろうかという思いが頭から離れません。
何度か電話してみようかと思いましたが、かけられませんでした。この年代になるとニュースはいいことばかりではありません。歩けなくなる程度ならまだしも、認知症で忘れているかもしれません。そういうニュースは聞く方も言う方も嫌だろうと思えました。
こんなこともありました。ある日、郵便局に車で入って行った時のことです。どこかで見かけたことのある人だなと思える人が前を歩いて自分の車の方に行きました。車は以前の車ではなかったので違う人かと思いましたが、相手もこちらを気にしているようで、やっぱり知人のようでした。私は声をかけるのはやめて、知らぬ顔をして、車を止め、マスクをしました。
彼女は元気そうに新しい車を運転していましたが、彼女には糖尿病で入退院を繰り返していたご主人がいたのです。話をすれば当然その話題は外せないと思いました。
この年頃になると、いいニュースは無いと思った方が無難です。
昔懐かしい、あの顔、この顔も思い出の中に留めておいて、今身近にいる人々を大切にした方がいいのだと言い聞かせています。