2017年9月23日土曜日

夫の喜寿

 誕生日が近づくと、夫は昔からソワソワする人でした。私は歳を取るということがあまりうれしくはないので、そんな気持ちがわかりません。それで、昔、誕生日が来ると、夫はよく友人と飲み歩いていました。こんな夫婦がよくこんなに長い間一緒にいたなと我ながら思います。
 さすがに歳を取って、飲み歩く友人もいなくなった夫は、誕生日が近づいてきても家でおとなしくしていて、娘たちが日曜日にケーキを買ってきてくれるまで待っています。
 そんな夫が、ある日、赤いちゃんちゃんこを着た父の写真を見ながら、言いました。「お父さんのあの写真はいつのだっけ。」
 その写真は私が嫁に来てからとったもので、喜寿の時でした。普通は60歳でとる写真のようで、儀式にうるさい姑は、多分60歳の時もそれを着せて、息子たちを参集させ、盛大にやったに違いありません。そのころ舅はまだ元気だったはずです。舅はどちらかというと、私と同じで、形式的なことに無頓着な性格のようでしたから、その時の写真はみたことがありません。
 それで、病気になって体が不自由になってから、あの時は78歳ころだったと記憶していますが、赤いちゃんちゃんこを着せて梅の花の下で、写真を撮ったのです。遺影にするつもりだったのかもしれませんが、実際遺影に使ったのは若いころの写真で、大きく引き伸ばした赤いちゃんちゃんこの写真は、多分我が家に飾ってあるだけです。
 「喜寿っていくつ」、「77かな」。そんな会話の後、「俺も今度は77じゃないか」。私は思わず夫の顔と写真の義父の顔を見比べました。体が不自由だったこともあり、義父の顔はいかにも老人でしたが、夫はまだ大抵のことはできる糖尿病患者です。で、言い訳のように言いました。「パパのほうが若いよ」。
 私は全く気付いていませんでしたが、忙しい他の誰も気付いていませんでした。
 で、娘たちと相談して、日光の温泉に日帰りし、長女たちに夕ご飯を持たせて、一件落着としました。