2021年12月10日金曜日

 本、『野望』船山馨 1976年、三笠書房発行

 これは図書館の除籍本でした。この船山馨という名前に聞き覚えがあって、『昔テレビドラマでやっていた北海道開拓の話ではないかしら』と思って、いただいて来てしまったのです。それから40年でしょうか、結局読まないで積んでありました。

 読み始めると、どうも北海道ではなくって東京のようです。でも、この作者は私の大好きだった山本周五郎のようなストーリィテラーで、難なく物語に入っていけましたから、きっと面白く読めるだろうという予感はありました。

 それでも、やっぱり気になるので、ウキペディアで調べてしまいました。

 1914年『北海道札幌市生まれ。実父の小林甚三郎は余市町の出身で、馨の出生当時は東北帝国大学農科大学(現・北海道大学農学部)の学生であった(後に北海道拓殖銀行などに勤務)。母方の実家の意向で母方の船山姓を名乗り、実父とも生後間もなく離別した。なお、馨によると甚三郎はクリスチャンで、トルストイなどの文学愛好者でもあったという。養父は新聞記者・森笛川。』

 やっぱり北海道の人だったようです。

 若くして名が売れたのに、ヒロポン中毒で名を汚し、『1967年に地方紙(北海タイムス)に発表した歴史ロマン『石狩平野』がベストセラーとなり、小説新潮賞も受賞、文壇の表舞台への復活を果たした。その後も『お登勢』『見知らぬ橋』『蘆火野』『放浪家族』、遺作となった『茜いろの坂』まで、新聞小説を主として精力的に作品を発表し、また多くの作品がテレビドラマ・舞台化されるなど、中間小説の大家として活躍し、国民ロマンの巨匠の異名を取った。』

 私がテレビで見たのはこの『石狩平野』ではなかったかと思うのですが、覚えてはいません。のちに『北の零年』を見たのですが、ウキペディアには『北の零年 - 2005年公開の映画作品。監督は行定勲、出演は吉永小百合、渡辺謙など。脚本は那須真知子のオリジナルであるが、船山の北海道開拓をモチーフにした2作品(『お登勢』、『石狩平野』)を参考にしており、本編のクレジットでも参考文献として紹介されている』とありました。

 この『野望』という小説は再ブレークより10年前の作品で雌伏期の作品のようです。で、少し読んでみると、若く美青年の主人公が、人を利用しながら、半分裏社会でのし上がっていく様を描いているんだとわかります。若く美青年じゃないとダメなんです。本人も人を、特に利用価値のある女性をたらしこむのに気おくれがしてしまうでしょうし、テレビ映りも良くありません。

 こういう人は庶民ののんびりと楽しい生活なんて考えないのでしょう。全身全霊でお金を追いかけ、策をめぐらします。

 貧しい苦学生で別れざるを得なかった男女の悲恋を対比させると、その醜さが際立ちます。そういう人種がいっぱい出てきて、最後は自ずとわかってしまうのですが、それでも最後まで飽きさせることなく引っ張っていきます。

 『1981年8月5日、心不全のため東京都新宿区中井の自宅で死去。享年67。おしどり夫婦として知られた妻の船山春子も同日の夜に狭心症のため急死したことも、船山の死と共に報じられ話題となった。』まるで小説のような一生だったようですが、このニュースを昔私も聞いた気がします。