2021年5月31日月曜日

 本『愛を感じるとき』金賢姫 1992年文芸春秋社発行

 本の整理をしていると、ベストセラーになった本は世の中にたくさん余っているということに気づきます。つまり、そういう本はどの家にもあるということです。 我が家にもご多分に漏れずたくさんあります。そういう本は、我がネット古本屋に出すわけにもいかず、古い文庫本などと一緒に古紙収集に出すしかないのですが、その前に、私が読んでみようという気になりました。

 最初は週に一冊は読めるだろうと高をくくっていたのですが、何のなんのまだ三冊目です。これからは月に一冊を目標にしましょう。

 この本は夫の本ではなく、父の本です。父は意外と本好きで、遠距離通勤のサラリーマンだったせいもあり、結構残して逝き、どちらかというと理工系の弟は読まないので、私が何冊か貰ってきたのです。が、やっぱり積読状態でした。

 この本も、今となっては作者の名前を知っている人も少なくなって、それはむしろ作者の望む普通の状態を作っているのですが、あの当時はベストセラーでした。そして、父も買ったのです。

 彼女は北朝鮮の元工作員で1987年115名が亡くなった大韓航空機858便爆破事件を起こし、バーレーンで捕まる寸前に自殺を図ったが、死にきれず、口にガムテープを張られ、両手をつながれた状態で韓国の空港に降り立った姿が、日本のテレビでも大々的に報道されていました。世間音痴の私でもはっきりと記憶しているのですから、皆さん、衝撃を受けたはずです。             

 その後、死刑を宣告され、やがて赦免されるのですが、この本が出る前に

『いま、女として- 金賢姫全告白』池田菊敏訳 文藝春秋 1991年10月( のち文庫)が出ていて、すでにベストセラーとなり、多くの励ましが届いている様子が『愛を感じるとき』池田菊敏訳 文藝春秋 1992年12月( のち文庫)にも書かれています。

 これは事件から五年後の心の変化をエッセイ風につづったもので、30歳になった作者が北の家族を心配しながらも、結婚もして静かに普通の生活をしたいと願う気持ちが素直に語られています。

 その後、ボディーガードだった元国家安全企画部の部員の男性と結婚し、名前を変え、男児を出産し、ソウル市内で普通の主婦として暮らしているとウキペディアに書いてありました。『やっぱりな』という気がしました。これは彼への愛の告白と同時に、世間の人にも人並みに幸せになることを許してほしいというメッセージだったような気がします。彼も安定した公務員の職を捨てて、愛に殉じたのでしょう。

 『1998年 - 金大中政権が誕生。以降2期10年に渡って親北政権・太陽政策が続き、親北ムードに沸く韓国世論にも押され、逃亡に近い生活を余儀なくされる。』とウキペディアに書いてありましたが、親北政権の文さんの元でも、きっと苦労の連続なのだろうなと思いやられます。

 みんなが幸せならばそれだけでいいのに、なぜ、政治家は自分の主張を押し立てて波風を立てたがるのでしょう。