2021年5月17日月曜日

 本『「耕す文化」の時代』木村尚三郎 昭和63年(1988)ダイヤモンド社発行

 『いま、文化としての『農』を議論すべきとき。技術文明が成熟した今日「ハイテク」は私たちに新たな驚きや感動を与えてはくれない。真に楽しく、真に創造的で、真に驚きと夢を与えてくれるのは「新しい農業」だ。新たなルネサンスの道がここにある。』帯に書いてある文です。

 この方は、一時代をけん引した評論家です。なので、この本を買ったのは夫です。

 読んでみると大学の先生らしく、たくさんの知識と経験がちりばめられていて、焦点が見えづらいきらいがあります。なので、最初のころは何を言いたいのかなという感じでした。一般にこういう本はストーリー性がないので、内容を把握しづらい気がします。

 やっと中盤になって、私にも分かるような、日本人は農耕民族だから、座してゆっくりと作物の成長を見ながら待っているのが得意、欧米人は狩猟民族だから、五感を使って動き回って獲物を確保するのが得意というのが出てきました。だから、欧米人は次々と技術を開拓しているということのようです。

 次に分かったことは、五感の時代ということです。つまり、高度成長の時代はみんなが脇目も振らずにに働いた。働けば働くほど豊かになり、充実感があって、文句の出ようがなかった。やがて低成長になると、(この本が出版されたのが昭和63年ですから、バブルの前の低成長でしょうか)人びとは働いても十分な見返りがなく、批判する心と、暮らしのハイテク化で時間の余裕が生まれてくる。そうして人々は五感を使って、インワールドルッキングをし始めるというわけです。

 今、低成長の真っただ中にいる私たちにもうなずける話です。特に今はコンピューターを使う人ならだれでも批評家になれる時代ですから、一人一人が五感を使って考えられる時代になり、自分は何者かを考え始める時代になったということでしょうか。そうして、昔の価値、生きるとは何かを再発見する、これがセカンドルネッサンスの時代というわけです。

 で、ここまでで終わってもいいのですが、溢れる知識と経験を持つ筆者は、文化(カルチャー)と文明(シビリゼーション)を論じ、地方独特の文化を大事に考えているといいます。例に挙げるのがヨーロッパ、農業国のイタリア、フランス、工業国のドイツ、イギリス。この二分類は宗教でもカトリックとプロテスタントという違いがあります。更にお酒の好みでも、ワインとビールという違いがあると言います。

 つまり、農業国のフランスやイタリアでは食べ物がおいしい。料理はゆっくりとワインを飲みながら、家族と楽しむ。比べて工業国のイギリスやドイツでは醒めやすいビールを飲む、昼に飲んでも午後また仕事ができるからだそうです。

 けれども、低成長の時代になって、働いても実りが得難い時代になると、本当は自分は何がしたいのだろうと考え始める。そして、著者は五感を使って楽しめるのは農業だと提案しているのです。

 著者の溢れるほどのたくさんの知識をいちいち『なるほど』とうなずいていると、なかなか論点がまとまりませんが、これも一つの自学学習でした。