22万円の本が棚の上にあったのです
夫が姑の絵の勉強用にと買ってあげた『芥子園画伝』という本が夫の本棚に並んでいましたので、今は使わなくなってしまったあの本達もショップにアップしなければならないと棚から下ろしていましたら、その先に箱があったのです。何が入っているのか、『また要らない紙類かしら』と思いました。事実、要らない紙類の入った箱が棚に並んでいた事もあったのです。
中に入っていたのは『三愚集』という本でした。本と言っていいのかどうか。その外箱の中に帙という布ばりの箱があって、その中に小口を金で輝かした布ばりの本が眠っていたのです。
三愚というのは、小林一茶、夏目漱石、小川芋銭の事です。つまり、その本は小林一茶の句を、夏目漱石の書で、小川芋銭が絵を描いて本にしたのです。それを当代一流の和紙を使い,当代一流の職人の手で仕上げ、金で輝かして、装丁に出来る限りの贅を尽くしたのです。その初版通りに作り上げた限定300部の復刻版でした。
その初版を作った人が、小林一茶も寄寓したと言われる、お金持ちの醸造業の家の婿養子さんで、その家の跡取りが、復刻したようでした。
その婿養子さんは、跡取りが成長すると分家して、事業を興し、やがて失敗してしまったようですが、その方のお孫さんが夫の知り合いだったのです。
その箱の中のパンフレットに、お孫さんの書いた晩年の婿養子さんの様子がかかれています。わび住まいで生活していても、いつもキチンと居住まいを正していたが、かっての文化人としての華やかさはもう無かったというふうに書かれていたと思います。
つまりは芸術家のパトロンだったのですね。何となく判ります。夫も同じような事をした事がありましたから。パトロンでいるのは楽しかったでしょうね。有名人がみんな子どものように慕って頼ってくれますから。終にはこんな本も作ってしまったのでしょう。
この本を定価通りの22万円で出しました。本当に世の中にこういう本を所有したいと思う人がいるのだろうかと思ったのです。欲しかったのはもしかしたら、作った本人だけではなかったかと私には思われたからです。
夫は買ったなんて一言も言わずに、棚の隅に隠してあったわけですから、世にも珍しい人種の部類なのです。これで60㎆。