2021年6月13日日曜日

 本『一休さんの道 下』川口松太郎 著 読売新聞社


 最初、『大君の都ー幕末日本滞在記』オールコック著、山口光朔訳。著者はイギリスの初代駐日公使、多事多難をきわめた幕末期の政治・外交史の貴重な記録であると共にすぐれた文明批評の書でもある』を読み始めたのです。

 三巻に分かれた岩波文庫青版です。どちらかというと学術書で夫の本ですが、夫も読んだ形跡はありません。今私が読まなければ、この本は読まれずに捨てられてしまうと思って、勇気を出して取っかかりました。でも、古い文庫本は字が小さく、紙が黄ばんでいて老人には読みづらい。

 昔、同じ岩波文庫で『三国志』を読み始めたことがあり、あまりの殺人と策略の多さにいやになって途中で捨てたことがありましたが、今回はそうはならないことを祈るのみで読み進めました。でも、序文を読んだだけで、捨てることにしました。やっぱり学術書はあまり好きではありません。

 で、手に取ったのがこの本でした。夫は一休さんが好きで、何冊か関連の本がありますが、これは『下』だけです。しかも著名だった劇作家の作品で、単行本で字も大きい。何とか読めるだろうと読み始めました。

 これ、フィクションですよね。さすがに著名な劇作家の作品だけあって、生き生きと描かれています。思わず引き込まれてしまう感じで毎日一章づつですが読み続けてしまいました。

 自分が一休だったらきっとこうしただろうという思いが随所に感じられるのです。最後に息子の川口浩さんの謝辞があって、そこにこれが遺作であること、奥さまの三益愛子さんが先に亡くなっていること、そして川口松太郎さんも亡くなっていることなどが語られ、「波乱万丈の人生を生きた」と書かれていました。川口松太郎というと、劇作家で有名作品も多く、華やかな感じで、奥さまも有名な女優さんでした。私たちの時代には息子や娘さん、お嫁さんも芸能界にいて、有名な一家だったんです。

 どこが波乱万丈だったんだろうと思って、ウキペディアを調べてしまいました。

 東京の浅草で生まれた私生児で、酒飲みの左官職夫婦に養子に出され、実の両親は誰だかわからないという。親を知らずに育ったという、一休さんと重なる部分があったのです.

 こういう重なり合う部分があると、人間は感情移入がしやすいのでしょう。夫が一休さんに魅かれたのも、どこか、似た経験をしたことがあったのだろうと思います。というか、波乱万丈な人とは、重なり合う経験を持つ人も多いはずです。

 小学校出で、丁稚奉公や露天商も経験し、『逓信省の電信技師の試験を受けて埼玉や栃木の電信局にも勤めた』そんな中で小説を書き始め、その方面の人脈を築いて行ったようです。その人脈の築き方が凡庸ではなかったと顔ぶれを見てもわかります。のちに有名になる人がたくさん名を連ねるのです。『戦後の1947年に大映製作担当専務、監査役となり、映画界にも貢献』とあるように文学界、演劇界、映画界といくつもの顔を持っていたようです。

 その上に、NHKのアーカイブス、『あの人に会いたい』を見て、「僕は人間が好きなんです」と言い、恩人菊池寛に涙する場面を見てしまうと、確かに、一休さんのように波乱万丈の人生だったんだろうなと納得させられました。